2012-02-06

おばあちゃんを竜宮城へ⑩ かんにん袋の緒は短い

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 今日の食事風景。
 私も姉も、重要な変化に気づきました。おばあちゃんの食卓からお友達の姿が消えた。おじいちゃんと一緒になってたった1日だというのに、おばあちゃんを囲む食事仲間がいません。


 私はおじいちゃんに言いました。


 おじいちゃんがおばあちゃんの邪魔になってるわ。おばあちゃんの友達が来てくれてても無愛想な顔してるさかいに、もう誰も来んようになったやないか。おばあちゃんがせっかくみんなと仲よく楽しくやってたのに。


 おばあちゃんも、「この人、みなさんに対してほんまにぶすっとしてはるねん。あんなんではあかんで、おじいさん」と言います。
 「なんでそんなこと言うねん?おじいちゃんはおばあちゃんと一緒にご飯が食べたいだけや」とおじいちゃんは反発します。
 けれども、食べながら「ここのメシはまずい」ばかりを繰り返すそうで、「私までごはんがおいしくなくなるわ」とおばあちゃんが困っています。


 食事が終われば、気の合った者どうしがエレベーター前のソファーで歓談タイムです。おばあちゃんはそれに加わる余裕も奪われました。ヘルパーさんが迎えに来るまで一緒に待っていてくれとおじいちゃんが言うそうです。
 
 わしはここにいるけどおばあちゃん行きなさいでええやないか。おばあちゃん、おじいさんにはかまわんと、みなさんとおしゃべりしてきたらどうや。


 私の言葉でおばあちゃんは食卓を離れました。そしたら、おじいちゃんも必死で立ち上がって、歩行器でおばあちゃんの後を追いかけ始めるではありませんか。自力で立ち上がりにくいからヘルパーさんを待っていたはずなのに。できるやないか。どうなってるねん。妻に置いていかれまいとするその姿が、哀れでもあり醜くもありました。


 食事どきだけではありません。おじいちゃんは、朝から晩まで、おばあちゃんの部屋にいます。「家とおんなじや。この人がこの部屋にいてなんか言わはるたんびに私がなにもかも面倒みんならん。アミーユに二人で45万円も払う値打ちがないなあ。こんなんやったら家にいたほうが、お金がいらんだけましや」とおばあちゃんが愚痴をこぼします。
 「なんで?わしはおばあちゃんと一緒にいたいさかいにCアミーユへ来たんやで」と、おじいちゃんはこれにも反発。
 しかし、それはただの美辞麗句。一緒にいたらおばあちゃんに自分の世話を任すことができる。それがおじいちゃんの本性です。このままでは、おばあちゃんがツブれてしまいます。おばあちゃんの犠牲の上におじいちゃんが楽をする。このままではおじいちゃんの竜宮城になってしまいます。
 そして、おばあちゃんも、情の面で強くありません。知らん顔してることができません。おじいちゃんが困っているのをみたら、頼まれもしない先から助けてしまいます。


 私と姉は事務所へ行きました。おじいちゃんの介護サービス内容を見直したいと申し出ました。
 おじいちゃんは要介護度4ですが、いまの介護プランでは要介護度2程度の中味になっています。ケアマネージャーの積田さんが、おじいちゃんは自立度が高いと踏んだからです。そして、夫婦で一緒にいたいというおじいちゃんの美辞麗句を、積田さんはいい方向で解釈してくれたのです。たしかに、おばあちゃんを犠牲にしないという決意がおじいちゃんに強ければ、いまの介護プランで充分でした。しかし、事態は変わりました。
 おばあちゃんと親しいOさんがこんなことを言っていました。
 私らみんな、口ばっかり達者で、下のほうへいったら垂れ流しや。それが私らのほんまの姿や。
 おじいちゃんもそんなひとりです。達者な口から出てくる欲求と衰えた身体機能の釣り合い。ケアマネージャーの人たちも、そこをもっとシビアに評価する必要があるんでしょうね。


 要介護度4のアドバンテージをめいっぱい使ってデイサービスでおじいちゃんをガンガン連れ出してくれと頼みました。おばあちゃんをツブすわけにいかない。夫婦を引き離さないかぎりCアミーユにいる値打ちがないことがはっきりした。おじいちゃんが何を言おうが、本人の意向は無視してもらってかまわないと告げました。
 介護される高齢者の尊厳だ意志だといいますが、高齢者ならばどのようなわがままも許容されるのか?!、です。尊厳や意志を大義名分にして自己の向上心欠如に由来する不都合をすべて拒否できるのならば、高齢者ほど楽なもんはない。うちのおじいちゃんみたいに自立の努力を忘れた高齢者を尊重しすぎれば、個々の家庭はおろか、やがて日本全体が破綻します。尊厳や意志を尊重される立場ならば、人格に見合ったディスアドバンテージも免れない。それが表裏一体なのは高齢者とて同じです。


 おじいちゃんをCアミーユには長く置かないと、私と姉は決めました。Cアミーユのように恵まれた住環境ですらこれですから、自宅ではもっとダメです。
 すでに申し込んでいる特養老人ホームが空き次第、おじいちゃんをそちらに移します。夫婦で一緒に暮らしたいというおじいちゃんの言葉にほだされてしまった。私たち自身が甘かった。反省しきりです。

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