2014-01-17

柏屋(大阪府吹田市千里山) ミシュラン三ツ星で新年会

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 えーっ、三ツ星?!

 これから行くのはミシュラン三ツ星の料亭だと、タクシーのなかで初めて聞かされました。行き先は吹田市千里山の「柏屋」だそうです。その名前すら知りませんでした。

 そんなことなら、カメラ持ってきたのに。iphoneしか持ってません。
 生まれて初めての三ツ星でiphoneなんて、俺はいったいなんのためにブログをやってきたのか。読んでいただく方にも、申し訳なさすぎるやありませんか。


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 うちの営業所が、なにかの売り上げ実績でトップをとりまして、会社から報奨金が出ました。いやいや、しかし、柏屋ですから、そんな報奨金だけで間に合う値段ではありません。積み立てていた懇親会費も一気に注ぎ込もうというのです。

 いくらですか?と、若い社員が幹事に尋ねました。

 おまえなあ、いきなり金の話は、いやらしいぞ。まあ、こんなもんや。

 幹事が立てた指の数は3本でした。「雪」という15,750円のコースにしたそうですが、酒も飲むわけですし、払う時点ではだいたい2倍になっていると幹事が言います。


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 大きな料亭です。庭を囲む設計で、お茶室の「嘉翠庵」から、30人収容の「松柏」まで、5つの部屋があります。私たちは総勢12名でしたので、案内されたのは2階の「松柏」でした。

 玄関から部屋まで、たしかに、立派ですが、味わい深い建物ではありません。よくいえば、かしこまらずに済みそうな気安さですし、わるくいえば、どこにでもありそうな料亭です。そういう人なつっこさ、商売然としたところが、食いだおれの大阪ならでは。和食は世界遺産にふさわしい文化だと自負する京都とは、いろんな面で違って当たり前です。


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 「ここのビールはアサヒの『熟撰』ですけど、みなさん、はじめはそれでいいですよね」と幹事。

 かつて、吹田市にはアサヒビールの工場があって、「熟撰」という銘柄の瓶入り生ビールが、地元の酒屋で売られていたそうです。賞味期限が3日間と短いビールなので、全国に出回ることのない銘柄でした。

 3・11の震災後、被災地の役に立ちたいと、アサヒが工場を福島に移転しました。それ以降は吹田市で「熟撰」を買うことはできなくなったそうです。ただし、「熟選」を飲める飲食店が全国に1273軒あって、柏屋もそのなかのひとつだそうです。


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 おいしいビールでした。少しフルーティーで、不自然な苦味はどこにもなくて、これでアルコールさえ入ってなければ、私は10杯でも20杯でも飲めます。こんなにおいしいものをちょっとしか飲めないなんて、酒に弱い奴は人生大損です・
 「アサヒの味とは思えない。アサヒといえばドライというイメージが定着しているけれど、これはまったくその逆だ」という声も出ていました。

 乾杯用の酒は、店が用意してくれていました。柏屋オリジナルの「柏樹子(はくじゅし)」という日本酒です。奈良県北葛城郡広稜町の長龍酒造
が作っているそうです。

 それを、兵庫県豊岡市出身という美人がついでくれます。その美人さんに星三つ!です。

 これもまた、えらく飲みやすい酒でした。おいしくて、まろやかで、幸せすら感じます。アルコールさえ入っていなければ、一升瓶ごと持って来いです。

 ビールも日本酒も、酒自身が充分に美味いのに、決して料理の邪魔をしないのが不思議でした。私のような下戸は、酔いたくて飲む酒ではないので、余計に酒の味にうるさくなってしまうのかもしれません。


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 さて、料理です。
 会社の新年会ですから、誰かとしゃべっている間に料理の説明が終わってしまいます。この小皿が何だったか、よく覚えていません。
 向かいの席に座った幹事が、たったこれだけの小さな皿の上によくぞここまで多様な味をちりばめたものだと感心していました。

 新年らしく、うらじろの葉を敷いたところに金色のお皿です。早くも蕗が使ってあります。

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 このお椀。これがおいしかった。おかわりできたらどれほど嬉しかったことか。どのように出汁を引けばこの味が出せるのか、想像つきません。
 短冊に切った人参の上に、おろした土生姜が、ちょこんと乗っかっています。この匙加減がすごいと思いました。これよりちょっとでも多かったり少なかったりしたら生姜抜きのほうがよほどましという量でした。


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 織部の器で刺身が出てきました。
 これに、梅肉酢と松前醤油がついてきます。
 しかし、「それがどうした?」でした。魚の味が引き立つわけでもなくて、梅肉酢や松前醤油にするだけの必然性がないと思いました。


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 いちばん印象に残ったひと品です。鱈の白子と白菜を細かく刻んで一体化させ、餡にしてあります。そして、菜の花とからすみ。からすみ自体のおいしさが後引きで、いくらでも食べたくなる味です。

 ふと前の席の同僚を見たら、喫煙所へ行ってしまった様子で、この料理が手つかずのままになっています。あいつはこれが出てきたことを知らないはずです。

 しめしめではありませんか。その同僚の分も、私が食べてしまいました。食べてしまって、さっさと食器を下げてもらいました。このおいしい料理を二人前も食べられたのは、ここ2~3年でいちばん幸せなできごとだったと思います。
 
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 これは、おせちlikeでした。鶴の器を開けると、数の子が盛り付けてありました。

 コースが進むに連れて、ひと品のなかに様々な味を散りばめてあることがよく分かってきました。

 見た目も華やかですが、食材の色が異なれば味つけも異なっていて、味で絵を描いたような取り合わせです。ひとつひとつの味でいえば、同じくらいにおいしい店はいくらでもあって、それだけなら日本全国に三ツ星がもっと存在してもかまわない理屈です。

 ただ、柏屋は、おいしさどうしのコンビネーションにこだわっているようですし、手間暇を押しまず細かなところまで凝ってあります。こういうところが星の数につながるんだろうなと思いました。


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 続くふた品の頃に、営業本部長から話しかけられまして、じっくり味わう余裕がありませんでした。あっち行けとも言えませんしね。

 上の写真は、平目、たらの芽の天麩羅。下の写真は、なぐり書きしたメモでは、鯛の紅梅煮になっています。あれえ、蟹と筍の組み合わせだった気もするけどなあと、よく思い出せない状態でして、間違っていたらすみません。


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 この煮物の組み合わせが、これまたおいしくて、いくらでも食べたくなる味でした。向かいの席の同僚がまたタバコを吸いに行ってくれたら、そいつの分も黙って食べてしまったかもしれません。
 私は、そんなわるいことを平気でやれる人間ではないんですけど、人を変えてしまう味の力。他人の分まで黙って食べてしまおうなんて気持ちになったのは、えらく久しぶりのことでした。


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 下のひと品は、大きく分ければお茶漬けです。
 米粒が、おにぎりよりもうんと緩く握った固まりになって、出汁のなかに置かれています。みんなはその固まりを崩して食べてました。両方の食べ方を試してみますと、崩さないほうがよりおいしく思えました。
 米自体が、まずおいしいので、それを出汁のなかで米粒単位にまで広げてしまうと、かきこむような食べ方しかできなくなります。それでは両者の味のグラデーションが飛んでしまうと思いました。


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 デザートは2種類でした。
 ひと品めには、晩白柚(ばんぺいゆ)という果実が入っていました。全体の味は蜂蜜ゼリーです。蜂蜜の香りをあれだけ出すにはどうしたらいいのか分かりませんが。孫の聖太郎が来たら、これを真似して作ろうと思いました。
 晩白柚って何?と尋ねたら、グレープフルーツのような果物ですと店が説明してくれました。いまネットで検索してみますと、ザボンの仲間で、子供の頭ほどの大きさだそうです。生産量のほとんどが熊本県だとのことです。旬は1月ですから、季節にふさわしいデザートを食べたことになります。


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 ふた品目は、和菓子とお薄茶。市松模様の羊羹です。
 きわめてさっぱり味の羊羹でした。お薄茶も含めて、コースをさらりとした感触で終える狙いなんでしょう。


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 返す返すも、iphoneしかなかったことが悔やまれます。
 料理の写真というのは、彩りや質感が伝わらないと、店にも失礼ですし、ブログを読んでいただく人にも失礼だと思うのです。彩りや質感のだいじさは、食材のみならず、器にもいえることです。

 今回は、会社のお金で食べました。会社のお金でなければ食べられない値段ですしね。もう一回行きたくても行けないだけに、ほんと失敗したと思っています。



 幹事が言うには、ミシュランの評価はフィギュア・スケートのようなもんで、いろいろなエレメントの総合計だそうです。べつに料理人の腕前ばかりを評価しているのではないといいます。そりゃ味がよくなければ評価対象にも入れませんが、かといって、単なる料理コンテストでもない。店の総合力を評価しているということでしょうか。

 いっぽう、ミシュランガイドの公式発表は以下のように言っています。


ミシュランガイドの星は、(1)素材の質(2)調理技術の高さと味付けの完成度(3)独創性(4)コストパフォーマンス(5)常に安定した料理全体の一貫性という5つのポイントについて評価されています。お気づきのように、これは料理のカテゴリーやお店の雰囲気ではなく、あくまで皿の上に盛られたもの、つまり料理そのもののみの評価なのです。そして各国に散らばる調査員全員で合議を行い、そこで了承されて初めて付与されています。
そして、その星の意味するところとは、

三つ星 そのために旅行する価値がある卓越した料理

二つ星 遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理

一つ星 そのカテゴリーで特に美味しい料理



 三ツ星の柏屋を実際に体験してみて、あるいは、二つ星のいふき(京都市)の体験を重ね合わせるに、ミシュランガイドの言い方は大袈裟すぎると思います。そのために旅行する価値がある卓越した料理だとか、遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理という言い回しには無理がありすぎます。そんな断言に責任をもてるほどのきちんとした調査を本当にしているのだろうかと、私は疑念を感じます。

 ミシュランガイド調査員の目に留まったなかで特においしかった店くらいにしておかないと、嘘をつくことになると思います。


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