2014-06-28

レストランhinata 湧水の里のイタリアン(滋賀県高島市新旭針江)

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 田んぼのそばのイタリアン。滋賀県高島市新旭町針江地区にあります。
 針江地区は、10年ほど前にNHKの「日本の原風景シリーズ 里山II・命めぐる水辺」に取り上げられて以来、豊かな水環境を守り続けてきた人里として知られるようになりました。
 梅花藻を期待してその針江地区を訪れたとき、レストランがあるのに気づきました。何度もここを通りながら気づくのは今回が初めてでした。




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 滋賀県高島市といえば、ゴミ焼却後の廃棄物に含まれるダイオキシン濃度をごまかし続けていた自治体として、近頃のニュースで取り上げられています。環境基準値以上のダイオキシンが含まれていることを知りながら、測定結果をごまかし、何食わぬ顔で神戸市の埋め立て処分地に捨ててきました。7年間にもわたって悪質な違法行為を続けてきたといいます。

 湧水の里針江の話題なのに清らかな高島市とは言いがたいところがなんとも残念です。ニュースから浮かび上がるのは、自浄作用のない高島市です。

 さて、レストランhinata。

 訪れたのは水曜日でしたが、正午頃から3人、5人、4人と、3組の女性グループがワンボックスカーに相乗りしてやってきました。私は独りで4人掛けのテーブルにいました。それですべてのテーブルが埋まってしまいました。テーブル数4卓、人数にして20人程度のキャパです。

 昼のセット1680円メニューを頼み、パスタは自家製ベーコンのカルボナーラを選びました。セットメニューの内容は下の写真で見ていただくとおり、サラダ、パスタ、デザート、ドリンクです。水の器にはミントが入れてありました。


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【サラダ】 シェフご夫妻は店の裏で野菜畑をやっています。hinata farmと名付けられた畑で収穫した野菜に生ハムを組み合わせたサラダには、味つけを意図的に酸っぱさ側に振ったと思われるコンソメジュレが載せられていました。
 サラダだからといって小さなボウルに盛るのではなくて、パスタと同じサイズの皿です。ジュレを全体に行き渡らせて食べるにはサイズのある平皿のほうが便利です。ジュレが先に来たのか平皿が先に来たのかわかりませんが、レシピと食べ方と器のマッチングが大切なことを学びました。

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【自家製ベーコンのカルボナーラ】 軽めでクリーミーなソース。私はもっと卵黄やチーズのクセがあったほうが嬉しいのですが、不特定多数を前提にすれば濃厚すぎるのはNGだと思います。
 なによりも特徴的なのが自家製ベーコンから広がる独特の香りでした。私が知っている香りのなかではグリークバジルの甘い芳香にもっとも近いものでした。このベーコンのおいしさによって、カルボナーラというよりもオリジナルレシピというに相応しい味になっていました。カルボナーラと細かく切ったトマトとの相性がいいことも学びました。
 ただ、ブラックペッパーの風味が飛んでしまっていて、カルボナーラの名称は黒胡椒の粗引きに由来するだけに、ここが残念でした。

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【デザートとコーヒー】 コーヒーがおいしいです。コーヒーがここまでおいしいイタリアンレストランをあまり知りません。メニュー上はエスプレッソと書かれています。
 デザートは、ティラミス、焼き菓子、ムースのセットでした。さりげなくおいしくて、いくらでも食べたくなりました。
 実は、この店のランチは絶対にうまいぞと予想したのは、ランチタイムを外れた時間帯に訪れ、このデザートセットとほぼ同内容のケーキセット(\1000)を食べたときのことでした(下の写真)。
 それくらいおいしいデザートです。

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【水】 ミントが入っていますが、香りが水に移っているわけでもなくて、季節感を表現したおもてなしです。 


 私のすぐ隣のテーブルに座った4人組の主婦トークが盛り上がっていました。こうして女友達ばかりで食事会や飲み会に来ることを旦那に伝えるのか伝えないのか、という話題です。

 まったく伝えたことがない奥さん、いつも必ず伝える奥さん、そして、おもしろかったのが、カレンダーに書いておくからそれで伝わるという奥さん。
 カレンダーを見て女子会の日程を知った旦那さんはお金の事をしきりに心配してくれるとのことです。「大丈夫か?みんなと行くお金あるのか?」と声をかけてくれるというんですね。奥さんの普段の口ぶりからうちの家計は苦しいと旦那さんが思っているそうで、「みんなと行くお金くらい、けっこうやりくりできるもんやんか。そやけど、まあ、そこまで私も言わへんしな」と、その奥さんは言ってました。

 で、旦那さんの給料は、いまどき珍しく紙袋に入った現金で受け取るそうです。そして、金額の端数を旦那さんのお小遣いにする。

 え?端数て、何十何円?
 まさかあ、何千何百円やけどな。
 何千何百円て、だいたいなんぼ?
 まあ、4千何百何十円とか、それくらい。
 あんたとこタバコ吸わはったやろ?
 吸うで。
 ようそんな小遣いでタバコまで吸うてはるなあ。
 あんたとこどうしてんの?

といった会話が続いていました。

 でも、この4人組、このレストランに亭主の小遣い談義だけをしに来たみたいなもんで、何も食べずに帰りました。というのも、この日、レストランhinataにはシェフひとり。奥さんがどういうわけだか不在でした。シェフひとりではこの4人組にまで手が回らなかったという事情があります。
 注文から調理から配膳から、何から何までシェフがやっていました。すでに2グループ計7名の客が入っていて、そちらが一段落するまで新たな注文がとれない状態でした。4人組は「また来るからええです」と言いながらワンボックスカーに乗り合って帰っていきました。

 まあ、こうしたイレギュラーが生じることもあるんですね。
 味はちゃんとしてますが、人員面や設備面では素人商売に近くて、ちゃんとしていない面が多々あります。だから、客がちゃんとしすぎますと、店の事情との間に大きなギャップが生まれます。

 たとえば、ピッツアですが、レギュラーメニューだと思って注文したら、「今日は石窯の火を入れてませんから。先に電話を頂戴したら準備しておいたのですが」なんて出来事もあると思います。
 ピッツアには生地を寝かす時間も必要ですし、石窯にはプレヒートの手間もかかります。田舎にあるこの店の場合、一日に必ず何十枚かの注文が見込めるわけでもなし、常に焼ける体制を整えておくのは大きな無駄です。別の見方をすれば、店の都合で客の便宜が損なわれるということで、そこが田舎レストランの限界です(どういう田舎かといえば、店が位置する針江地区の人口はわずか700人。昼間はお年寄りばかりです)。
 そんなとき、なんとわがままな店だと思うか、焼くからにはきちんと焼くんだなと思うかで、この店の評価がまったく変わります。

 私の場合は、シェフのポリシーとおいしさが連動していると思っています。シェフのポリシーというのは、自家栽培の野菜にこだわるとか、手造りの石窯でピッツアを焼くとか、のんびりした環境でゆったり食べるからおいしいんだとか、イタリアンレストランのおいしさを自らが理想とする田舎暮らしで支えることだと思われます。

 ただ、その種のポリシーは、自分のやりたいようにやれてこそ幸せなだけに、「俺は俺、客は客」の独善的発想を生み出すリスクも併せ持っています。こういう店の長続きは、シェフと客が互いにどれだけ歩み寄れるか次第だと思いました。

20140625-IMG_7768生水(しょうず)の郷と地元が名付けた針江地区の景観。湧き水7割で安曇川の水が3割、水温は年間通して15℃と、地元の子供が教えてくれました。

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